焼印の特別な使い方

石本様より、伝承会という文字の焼印製作を依頼されました。製作する焼印の打ち合わせで、ともかく深く彫った印面にしたいとの事でした。焼印の大きさとデザインからすると特別に深く彫らなくても大丈夫だと最初は、思いましたが普通に印面の凸部分が黒く焼ける焼印として使うのではなく、焼けやすい木材に、印面の温度を高くして長めに押し当てて刃物で彫ったような深い彫りにしたいとの事でした。初めて聞く焼印の使い方でしたので、上手くいくのかわかりませんでしたが、深彫りで直火式焼印を製作しました。焼印の印面は6ミリ程の深さで彫りましたが、焼けやすい木材+温度が高め+長く押すという普段は犬猿しがちな3つの条件が重なっていますので、印面を深く彫るだけではなく、台座部分のオフセットもゼロにしました。ちなみに台座部分のオフセットとは、印面のデザインが彫られた部分に焼印の棒を取り付けたり、印面の温度を保持しやすいように台座とよばれる部分をつけます。この部分、押す素材の形状に合わせて変える事があり、例えば製材された四角い板に焼印を押す場合には、印面を板に対して水平にあてやすくする為に四角い台座にします。この台座部分、硬い素材に焼印を押すときには、目印にもなり役にたつのですが、逆に柔らかい素材に焼印を押す場合には、印面の沈み込みが大きいと、台座部分も素材にあたってしまい、台座部分の焼け跡が残ることになります。又、四角形でない素材に押すときには台座部分が四角形ですと焼印を押した時のイメージがつまえにくくなりますので、不定形の素材に押す焼印の場合には、印面の形と同じような台座にして印面を素材に押し当てるときの目安にします。その時に印面の形と同じで少し大きめに台座を作り、この同じ形で作る台座をオフセット台座と言います。そして印面のデザインと同じ形で同じ大きさの台座をオフセットゼロの台座と言います。普通、パンやケーキのような柔らかい素材に使用する焼印はオフセットゼロ~2ミリ程度で作りますが、今回は木材用でもオフセットゼロにして、更に高い温度を保てるように台座を厚めにしました。

左の写真は、出来上がった焼印をシナベニア板に普通に試し押しした時の画像です。丸みを帯びた優しそうな書体で、深く焼印を押した時に全体に丸くなる事を想定して選んだ書体だと思います。右は、後日、石本様より頂戴いたしました伝承会の木札を撮った写真です。素材は杉だと思いますが、木を全体的に焼いてから普通より熱くした焼印を長めに押し付けて彫るような感じで出来上がっています。 私の知らない焼印の使い方がまだまだあると思いますので、知っている方はご一報頂ければ幸いです。