Fusion360を使った3D焼印作り

CADソフトを使った曲面焼印の製作

何時もお世話になっております札幌のチエモク㈱様から木製の器の曲面に押す焼印を作りたいとの依頼を受けました。普通の焼印は、印面部分を平面にして仕上げますが曲面にする焼印もいくつか作ってきました。 只、曲面にすることによってのデメリットもあります。

焼印の印面部分を曲面にする事について

通常の焼印の印面が平らであるのには、訳があります。焼印を綺麗に対象物に押すには、印面部分を対象物が全面的に触れる事が大前提になります。又、印面部分と押す対象物との間に少しでも隙間があると、その部分の模様が途切れてしますし、ほんの少しの隙間でも影響してしまいます。そのために、一番、押す事が多い、平面を基準にして印面と作ることになります。

曲面焼印のデメリット

1.焼印の印面を曲面にすると、同じ曲率をもった曲面にしか綺麗に押す事ができ  なくなります。

2.焼印の製作金額が割高になります。普通の平面の焼印の場合には、2Dの平面データに厚みをつけた2.5Dのデータを作り切削する事になりますが、3D焼印の場合には完全な3Dデータを作ることが必要になりますので、データを作成するための時間が大幅に長くなり、切削するための時間も長くなるのでその分、製作金額も高くなってしまいます。

3.製作期間も長くなります。

曲面焼印の製作

今回、製作しました曲面焼印について詳しく述べていきたいと思います。又、製作方法や注意点も書きたいと思います。

製作のために頂戴しましたデータ等の確認

頂戴しまいた参考データ
製作予定の完成予定図

上の画像は、チエモク様より頂戴いたしました出来上がり予想図です下の黒いアイヌ文様が今回製作する焼印のデザインになります。

製作焼印のデザインデータ
製作用の頂戴しましたデータです。

頂戴しましたイラストレーターのパスをとって製作データになります。2つのデザインを3か所に押すことになります。

器データ
焼印を押す木製の器に関するデータになります。

上の図は実際に焼印を押す木製の器の製作データになります。今回の器は木工旋盤によって加工精度が高く作られるために曲面の焼印を作る事になりました。
実際に、焼印の製作データを作る場合には下記の2つの方法があります。

①この図面より焼印を押す部分の曲率を求めて平面で作ったfusionのデータを曲率通りに変形する方法

②器と焼印の2つのモデルを作って、必要な位置にその二つを重ね合わせてから、器の部分を差し引いて焼印の曲面を作る方法

今回はfusion360を使って②の方法で曲面の3D焼印を作っていきます。又、正確に焼印を押すためには、治具も必要になりますので、なるべく焼印を押す工程を簡素化できるように実際に押す3種類のデザイン(2種類で併用が一つ)をまとめて1本の焼印(一番上の画像の下のアイヌ文様のように)にするつもりでfusion360上でデータを作っていましたが複雑な曲線が多く出てきて、fusion360の動作が極端に遅くなり止まってしまいデータの作成ができませんでしたので1本ずつ分けて作ることにしました。あまり高スペックではないパソコンを使っているので負荷がかかり止まったと思います。ワークステーションで高スペックな機器を使えばできたと思います。(残念です。)

fusion360を使っての製作

ここから実際の作業を簡素化して説明させて頂きます。作業をしていて一番感じたことは、操作の待ち時間が多く、これ位の処理をするには、自分のパソコンが非力だったことです。のちに、fusion360のCAMを使ってNCデータを作りましたがその時も、精度を上げるとパソコンが計算でフリーズするので仕方なく精度を下げてデータを作りました。

fusionで作った器
fusion360で作った器

上の図は、fusion360で作った木製器の3D画像になります。チエモク様から頂きました器の設計図から輪郭をとって360度回転させることで立体にしました。
又、焼印の印面部分は、頂戴しまいたイラストレーターのファイルをイラストレーターのソフト内でDXFファイルに変換してから、fusion360にインポートして大きさを整えたり、厚みや台座部分を付け加えて作りました。この時に、印面部分の厚みはそのまま傾斜をつけずに直角に押しだしましたのは、実際に器部分を引いた時の為です。fusion360のCAMを使ってNCデータを作った時には、切削用の超硬文字カッターの刃物の勾配に合わせたデータにしています。

器と焼印の3dデザイン
fusion360で描いた器と焼印のデザイン画

上の画像はfusion360上で実際に焼印を押す位置の上まで印面を持ってきた画像になります。ここまでくる間に印面と器の角度や位置の調整を何度もしてようやくたどり着きました。電卓片手に、久しぶりに三角関数や角度等に触れました。

器に焼印うぃおめり込ませた画像
器に焼印を食い込ませてみた画像

上図は、焼印の曲面を作るために器に焼印の印面部分を食い込ませた画像になります。この後に器部分の差をとって焼印の印面が出来上がります。

曲面をとった焼印
fusion360で作った焼印の印面

器部分を差し引いたのちに確認するための焼印画像になります。実際より印面の立ち上がりを高くとっていますが、これは、この時点で、焼印の彫の深さを何ミリにするか自分の中で決定していなかったので高めにしておきました。

焼印の真横図
真横からみた焼印

真横からみると、焼印の印面部分が曲線になっているのが一目でわかります。fusion360のような3DCADの場合、すぐに画像として作ったものを確認できますので安心できます。

確認用3D画像
fusion360上で焼印を押した時のシュミレーション

fusion360上で、器のデータから焼印のデータを差し引く事で実際に焼印を押した時のシュミレーションを提示することができます。あくまでも、パソコン上です。(実際には、これだけ綺麗にハッキリ押すのは難しく、細かな条件を整えていかないとなりませんが…)

fusion360のCAM
fusion360のCAMの画面

fusion360のCAMの画像になります。少し見えにくいかもしれませんが上の画像の左側中心部分に出ている警告マークは、精度を上げすぎてパソコンがフリーズしたことによるものです。
実際に作ったデータは、オリジナルマインドさんのCL-200というCNCを使って切削しますが、この時に、焼印としてそのまま使えるように真鍮(C3604)を削ってもよいのですが、3軸のCNCで削ると上からでは彫れない部分が出てきてしまう事と、印面を高くしているので、高精度で長い時間削る事になるために、実際には、モデリングワックスを削り、削り上がったモデリングワックスを手作業で修正してからロストワックス鋳造で作ります。(前もって鋳造時の縮み等は考慮しています。)

出来上がった印面
鋳造後の焼印の印面2種類です。

上の写真は出来上がった2種類の3d曲面焼印の印面部分です。
通常は台座部分は着けないで印面のデザインのオフセット1mm位で仕上げるのですが、今回、器に押すときに水平、と垂直がわかりやすいように四角い台座を取り付けました。又、印面のデザインが細かくて真鍮(c3604)では強度的に弱くなるのでBC(砲金)で鋳造しました。このあとに150Wの電気ごて用の棒材を取り付けて完成となります。 焼印を押すための治具ですが今回はチエモク様の方で作るとの事でしたので作りませんでしたが、メタルアートで販売しています焼印スタンドにミニ旋盤用の割り出し円テーブルを取り付けて押せば、3つの印影を等間隔で綺麗に押せると思います。

焼印試し押し
出来上がった3d焼印を押す。

チエモク様から頂戴しておりました試し押し用の木の器に出来上がった3D焼印を押してみました。治具を使わずに電気ごてに取り付けて手作業で押してみました。印影はしっかり出ています。器の形が安定しないので、手で持って押すには限界があるようです。治具を使わないと量産はできないでしょうね。

もらった画像1
あとでチエモク様からもらった画像1
もらった画像2
後程、もらった試し押し画像2

上の2枚の写真は後になってチエモク様から頂戴いたしました画像になります。今回製作しましたアイヌ文様の2種類とは別に下の顔の部分も焼印を押していますが、この焼印は曲面ではなく平面で作られた焼印を使っています。デザインが単純で、印面の彫を深く作っているので問題なく押すことができました。

最後に

実は、今回、初めてfusion360を使って3dの曲面焼印を作りました。今まで3d焼印を何本も作ってきましたが、使っていたソフトがフォトロンという会社の図脳ラピット3dというソフトでしたが、更新をしていなかったのと、今回作ろうとした3d焼印が少し複雑だったので、手持ちの図脳ラピット3Dでは難しく、高機能の図脳ラピット3d PROにしないとできないようだったので、金額的なものとこれからの事を考えてfusion360を1年契約で注文しました。ソフトが変わり使いかってが変わりましたので幾分苦労しましたがどうにか、焼印を収める事ができました。今回、お客様に無理を言って納期を長くみてもらっていたので内心ホットしています。せっかくfusion360を購入したので、色々と作ってみたいと考えております。