左官屋さんの焼印

根子左様の焼印製作

水戸にあります㈱根子左様から定期的に焼印のご注文を頂いております。初めてご注文を頂きましたのは、2007年の4月でその後、毎年、3月か4月にご注文を頂いております。左官屋さんなので、左官用のコテの木部部分等に焼印を押して使っていると思いますが、春先のご注文で、名前のご注文が多いところから推察すると新入社員さんのお名前の焼印ではないかと思います。私の義理の父が建築木工関係の仕事をして壁塗り等もしていましたので、先端が三角形に尖った左官のコテは何度も見たことがあります。実際にコンクリートを壁に塗った事もありますが、思ったよりも難しく綺麗には塗れなかった記憶があります。そもそも左官屋さんとは何かと尋ねられたら答えられないので、どのような職業なのか調べてみました。左官屋さんもかなり昔からある職業で、雨が多く湿度が高い日本の気候で、住みよい家を作る為に工夫されてきた技術のようです。勿論、海外にも同じような職業があり、使っている鏝も日本の左官鏝は先が三角になっているのに対しイギリスの左官鏝は四角い形をしています。只、今の左官屋さんが使う鏝は、仕事のバリエーションが増えた事によりかなり多様化しています。

左官鏝
左官鏝画像

上の画像は、色々な左官屋さんの鏝を集めた画像です。左の上の鏝は、各鏝、中塗り鏝とよばれる種類でイギリスの鏝のように四角く、広い面積の部分を効率的に塗るのに使います。上の中央の鏝は、レンガ鏝と呼ばれ、色々な材料を混ぜたり、すくい取ったりするのに使います。上の右の鏝は四角い板の部分に鋸のようなギザギザがあり、櫛目角鏝といわれ、モルタルや接着剤に櫛目の筋を入れる作業に使われます。下の左の鏝は、シゴキ鏝といい、塗った面を補修する作業に使います。下の中央の鏝は、鏝に板の下部分にゴム板が取り付けてあり、ゴム鏝と呼ばれタイルの目地等にセメントを詰める作業用です。下の右の鏝は、ハイモルタル鏝と言われ、鏝の裏面部分に凸凹があり、土間作業で、モルタル、コンクリートを塗るのに使います。このように現在では用途により細かく分かれています。それと左官屋さんと言うと、練り上げた壁材を入れて手に持つ四角い板も特徴ですね。あの板は、コテ板と呼ばれ材料を持つだけではなく、塗る壁の状態をみて手元で混ぜ込む為にも必要になるそうです。
左官という言葉自体は、官位からきているようで、宮中に出入りして建物の建築や管理に携わっていた職人たちを木工寮の属といい、その「属」の文字を「さかん」と読んだ事から左官と呼ばれるようになったという説や、東大寺の大仏殿の棟上げの時に官位を授与された大工の壁塗りを左官と呼んだ等の説があり本当はわからないようです。
日本家屋の壁は小舞下地と呼ばれる骨組みとして竹を編みこんだものに、藁を混ぜた土を塗っていく土壁、麻等の繊維と糊、消石灰等を混ぜて塗った漆喰がありますが、どちらも綺麗に塗り上げていくのは難しく、熟練した職人が求められ、高く評価されていました。そんな左官屋さんですが、西洋建築が入ってきてからは、お風呂のタイルの壁塗りやレンガ、モルタル塗り等の用途で再認識されるようになり、昭和中期の高度成長期の建設ブームの時には、人でな足りなく引っ張りだこだったと言います。又、近年の職人ブームで左官屋さんの職人になりたいと希望する若い人も増えているそうです。全国には左官の技能を教える学校が多くあり、私の住んでいる北海道にも、札幌左官高等職業訓練校や旭川左官高等職業訓練校等があります。又、一般社団法人、日本左官業組合連合会という組織があり、左官業に対する技術指導や情報公開や技能検定試験に関する指導、左官業を営む人に対する貸付等を行っています。私も、左官屋さんに国家技能検定がある事はしりませんでした。建築業法施行規則の基幹技能者制度という仕組みがあり、国土交通省が認定した機関が実施する登録左官基幹事業者に認定講習を受けて認定されるそうです。根子左さんには高い技術を持った職人さんがおられるようで、文化財の修繕等の仕事もしております。例えば、旧弘道館という水戸藩が藩校として天保12年(1841年)に建てた建物が震災で傷んだ時に修復工事をしたりして、高い左官技術を披露しています。左官屋さんなので壁塗りという仕事もあるのですが、エコクリーンと呼ばれる高品質や珪藻土を使った壁材を使い、健康と環境に優しい工法、材料を使用してまさしくエコな取り組みをしています。

根子左様の焼印1
㈱根子左様の焼印

上の写真は根子左様の会社のロゴマークと名前の焼印です。最初にご注文を頂き作ったもので、大きさは左のスケールからわかると思いますが、印面に対して発熱量の多い100W電気ごてで製作しました。(温度コントローラを使う前提でしたので拡張性からそうしました。)デザイン的に縦長のものが多いのは、焼印を押す左官の鏝の木の柄部分が円柱形をして細長いので、縦長の焼印の方が押しやすいからです。

焼印の各種デザイン

ご注文頂いた焼印の大きさは概ね10ミリ×30ミリ位が多く、文字と枠が主なデザインで飾りを加えたものもありました。サイズ的に細かな飾りをつけることは難しいので、押せる範囲での飾りになりました。

枠と文字の焼印

一番単調なデザインの枠の中に文字が入った焼印が一番多いようです。飾りの入った焼印の方が綺麗で見た目が良いのですが、うまく綺麗に押すのがその分難しくなりますのでシンプルになったと思います。

四角い枠の焼印

上の4枚の写真は四角い枠に文字を入れた根子左様の焼印です。一部、ピンボケの写真もありますがご容赦ください。4本いずれも100W電気ごて仕様で製作しています。職人さんのお名前の焼印で、ご自分の道具に押して使うと思います。
勘亭流の太めの書体が好みのようです。太目の書体の場合には、狭い余白部分を広げる調整をして押した時にわかるようにしてから製作しています。

角を加工した枠の焼印

左の写真は、枠の角部分を落として製作した根子左様の焼印を厚紙に試し押しした時の画像です。右の写真は枠の角部分を加工してデザイン化しました場合の画像です。どちらも100W電気ごて仕様で作りました。

デザイン的に凝った焼印

次の焼印は枠のあるなしに関係なくデザイン的にすこし複雑になった焼印です。大きさ的に小さいのであまり複雑にはできませんが、中々良いと思います。

枠+デザインの焼印

左の写真は、中心部分に太陽のようなデザインを施した焼印をシナベニア板に試し押しした時の画像です。右の写真は虎の顔をデザインしたものに名前を入れています。この焼印は厚紙に試し押ししました。どちらも高さ30ミリで100W電気ごて仕様の焼印です。

枠なしデザインの焼印

枠をつけずにデザイン的な要素の高い焼印も作っています。枠がない分、空間の広がりと開放感が感じられます。

左の写真の焼印は、竜のような中華風のイメージの焼印で文字も独特です。右の焼印は、鯉が泳いでいるようなイメージの焼印でどちらの焼印も大きさは、高さ30ミリです。頂戴したデータで作りましたので、デザイン的に優れた人がデザインしたと思います。どちらも100W電気ごて仕様で作りました。
職人さんがそれぞれ使う手道具に作った焼印を押してもらえることは、作り手としても大変うれしい事です。